学生時代の日記に見る宮本武之輔

私が宮本武之輔に出あったのは、公共土木事業に関連する業を営む者として、知っておいたほうが良いからという理由で、この「宮本武之輔を偲び顕彰する会」に参加させていただいてからである。この会の主な活動のひとつに、宮本武之輔の日記を読むことで、宮本武之輔の人物像を明らかにすることがある。従って、まだほんの一部分の日記しか読んでいないが、特に学生時代の日記から窺い知れる宮本武之輔の人物像を調べることとした。
前述のとおり、まだ一部分しか読めていないため、これから読み進めることによる日記の記述内容の経時変化については、目をつぶっていただき、途中経過として参考にしていただければ幸いである。

宮本武之輔の日記のテーマは、本人が最初に書いてあるとおり、「もし、一度逢っては永久的に別れ或は一度言葉をかはしたがたままにして別れ或は、その各も知らず其顔も知らざる人と人との間に一個の意義が感ぜられるならば、筆を取りて、人生の行程及び吾れと他の人生との交錯の痕を紙の上に止めて見るのも、強ち無意味なことではあるまいと思ふ。」と記されているように、宮本武之輔の日常の生活、家族、友人との出会いやエピソードを記した記録である。特に学生時代の日記には、日々の学業や友人との交流などの日常生活が、読んでいる人にも情景が伝わるような文章で綴られており興味深い。
私には、明治生まれの祖父がいたが、その祖父が生きた時代の様子(もっとも祖父は人生のほとんどを愛媛県で過ごしたが)を垣間見るような気がするためそう感じるのかもしれない。
学生時代の日記の内容は、時代こそ違え、多感な青年時代にだれでも体験するような出来事が綴られている普通の日記である。その日記より感じた宮本武之輔の人となりについて、

  • 向上心
  • 正義感
  • 判断の論理性
  • 考え方の多様性
  • 公共性
  • 茶目っ気、ユーモア
  • 家族との深いつながり
  • 細かい観察力

というキーワードが読み取れる。それらは

  • 人生には、幾度も選別の機会があるが、最初の選別に残ってこそ人として生きる価値がある(そのために、常に準備を怠らない)という向上心
  • 物事は、「善」の立場から「悪」は間違いだが、「悪」の立場からは「善」は間違いである。正しい判断を下すには、共通の基準が必要であるという考え方の多様性と論理性
  • 浴場で、自分の流したお湯が、他の人の方に流れていき、その人の臀部にかかってしまったことに対して、自分の公共性のなさを反省する純粋さと公共性に対する自省
  • ちょっとした悪戯を「××日記」と題して詳細に出来事を書き残す茶目っ気

等の日記の内容から窺い知ることができる。

しかし、これらのキーワードは、後に大河津分水の可動堰建設工事を成功させ、日本の科学技術発展の基礎を築いたという実績を元に導き出した「逆引きのキーワード」であり、その当時からそれらの偉業を為し得る素養を備えていたという証拠と判断することは早計である。

日記を読む限り、宮本武之輔は品行方正な優等生ではなく、当時どこにでも居そうな、学生生活を楽しみ、親近感がわく真面目な学生のように感じられる。その学生がこれからどのような経緯を経て偉業を成し遂げるに至るのかは、これから更に日記を読み進めて調べていく予定である。また、日記を書き始める前の宮本武之輔の生活についても調べる必要が出てくるかもしれない。今後、皆さんにご報告できる内容の成果ができたときに、また結果を報告させていただきたい。

ありがとうございました。

筆- 岡 兵典 -